白鳥のモチーフは、
実はずっと
作ってみたかったもののひとつでした。
けれども、
そのフォルムの美しさと難しさ、
そして「白一色で表現する」
という繊細さに、
なかなか形にすることが
できずにいました。
イメージを重ねながら
白鳥の姿を思い浮かべながら、
実際の写真を見ては、
少しずつイメージを重ねていきました。
体の毛並みを表現するために、
サテンの白い刺繍糸を使うことは
最初から決めていました。
けれども、それだけでは
ふっくらとしたやわらかさが
足りないように感じ、
もう一種類の糸を合わせることに。
糸の本数や針目の長さも、
印象を大きく左右する大切な要素です。

どのように刺し進めるのが良いか
どの表情がいちばん美しく見えるのかを
探りながら進めていきました。
羽の表現という難しさ
一番悩んだのは、羽の部分でした。
立体的に見せたい。
けれども、
やりすぎると重くなってしまう。
尾羽はスパンコールで表現することは
早い段階で決めていましたが、
羽まで同じ素材にすると、
全体の表情が単調になってしまいます。
ビーズでの表現も試しましたが、
思い描くやわらかさには届かず、
試行錯誤が続きました。
思いがけない素材との出会い
そんなとき、
別の用途で入手したモチーフレースに
目が留まりました。

ふと、
「この形なら、羽として使えるのでは」
そう思ったのです。
レースのやわらかな表情は、
刺繍だけでは出せなかった軽やかさを持っていて、
ようやく、白鳥の形が見えてきました。
白一色だからこそ
このブローチは、
白一色で構成されています。
だからこそ、
使う素材はとても慎重に選びました。
質感の違いだけで、
表情が変わってしまうからです。
完成した白鳥は、
ほぼイメージ通りの姿になりました。
けれども、
どこかまだ足りないような
感覚が残っていました。
王冠というひとつの答え
そのとき、ふと
「王冠をのせてみたらどうだろう」
というイメージが浮かびました。
もちろん、
このサイズに合う既製のパーツはなく、
ビーズを使って
縫い留める方法を選びました。
これは、オートクチュール刺繍の
アクセサリーでも
よく使われる技法のひとつです。
王冠を添えたことで、
うつむき加減の白鳥の表情が、
より印象的に見えるようになりました。
なぜ、王冠を
かぶせてみたいと思ったのか。
今にして想うと、
昔、祖母に連れて行ってもらった
『白鳥の湖』の舞台が、
心のどこかにあったからかもしれません。
自分の中では、理由がはっきりしていなかったのですが、
後になって、その記憶とつながっていたことに気づきました。
もうひとつの表情
最初はゴールドの王冠で仕上げましたが、
並べたときの美しさを考え、
シルバーバージョンも制作しました。
また、白鳥の向きも左右で展開し、
対になるような楽しみ方もできるようにしています。

飾るときの印象や、
身につけたときのバランスも、
お好みに合わせて選んでいただけたらと思っています。
想いから形へ
こうして、
試行錯誤を重ねながら、
白鳥のブローチは
少しずつ形になっていきました。
ひとつの作品には、
見えない選択の積み重ねがあります。
素材、質感、形、そして余白。
そのすべてが重なって、
ひとつの表情が生まれるのだと感じています。
最後に
この白鳥のブローチには、
もうひとつ、
特別なストーリーがあります。
レッスンとして
お作りいただいたときの記録を、
別の記事にまとめていますので、
よろしければ、そちらもあわせてご覧ください。



